保育施設で立て続けに、「りんご」による窒息と考えられる事象が起こってしまったようです。
「りんご」は赤ちゃんの離乳食として頻繁に登場する食品です。
だからこそ、うちの子にどうやって与えたらよいのかしら?と不安を感じている保護者や、給食対策を考えている保育園関係の方も多いのではないでしょうか。
このような報道があると、「乳児にはペーストを与えるべきだ」という専門家からの発言が聞かれるなど偏った情報が流れやすく、また保育園の安全管理に注目が集まりますが、問題は何か月の子どもに何を与えるかではなく、保育園の安全管理でもありません。
赤ちゃんがりんごを食べるのは自然なことで、0歳から保育園に入れるのだって当たり前なのですから。
私は、藤沢市内の3つの保育園医をしています。
保育園の先生たちの話を聞き、保育園がどれほどに給食のことで頭を悩ませているか知っています。
皆さんには見えない部分かも知れませんが、入園してくる赤ちゃんの離乳食の進み具合はまちまちで、それでも限られた人員で個別性の高い離乳食を安全に提供することに、様々な工夫を凝らしています。
そういった現場の状況を知っている立場としては、このような事故は保育園の安全管理だけ考えても再発防止にならない、そのように強く思います。
加えて私は、栄養・摂食支援専門外来(授乳相談やごはん外来)の中で、哺乳拒否をする赤ちゃんや、離乳食を食べない赤ちゃん、2〜3歳になっても自ら食べようとしない子どもなど、飲むことや食べることに何らかの難しさを抱えている方の診療をしています。
食べない子どもたちの支援をしていると、赤ちゃんの離乳食期に大事にしたいことが見えてきます。
今回の報道のような窒息事故を防ぐにはどうしたら良いのか、困っている人たちを様々な角度から見ている立場としての意見を書こうと思います。
まずは、「乳児は食べものを喉に詰まらせる可能性があるから、ペースト食を与えれば良い」という意見に対して。
ペーストを与えていれば窒息は起こりづらいのか?
答えは「No」です。
ペーストをスプーンで与えられる方法と、手づかみで自分で食べる方法と、窒息リスクに差がないことが研究によって明らかになっています。つまり「何を食べるか」を変えても、窒息は防げません。
次に、子どもの様子をよく見て離乳食をステップアップすれば、窒息は防げるのか?という問いに対して。
これも答えは「No」です。
家庭でも保育園でも一般的には、「ごっくん期〜もぐもぐ期」などの進め方の目安を参考にしていると思います。
でも、それはあくまで目安。単なる目安です。
月齢通りに進むわけがないし、子どもの発達には個体差があって、食べ方や好みもそれぞれ。
いつがモグモグ期かなどということは、家族が子どもの口の動きを観察しても分かりづらいもので、保育園においても、一人一人に食事を合わせるなんて不可能です。
口腔機能の専門家とて、目の前の子どもにベストフィットな食事を出すなんて無理に等しいでしょう。
つまり、いくら大人が子どもに与える食品について考えを深めても、窒息予防に直結する対策にはならないのです。
ではどうするのか?
窒息とは、喉に食べものが落ち、それが気道を塞ぐことです。
普段だったら回避できることも、何かの理由で「不用意に」起こってしまうのが事故です。
不用意にそのようなことが起こらないように、どうすれば良いのでしょうか。
答えは、実にシンプルです。
子どもが自ら食べる練習を積み重ねてスキルアップする!
これに尽きます。
「自ら」という言葉を使うのには、ワケがあります。
スプーンで食べさせられているだけの場合、何がどれくらい口に入ってくるかをコントロールできません。
人から食べさせられる時、口に食べものが入ってくるまで、その食べものに関する情報(味・硬さ・形など)はゼロです。器の中を覗き込まない限り、見た目も分からない。
もし赤ちゃんにとって受け入れにくい食べものであっても、「NO」って言えない。噛めなくてもがんばって飲み込もうとしたり、本当にいやだったらしかめっ面をして吐き出したり、身体をのけぞらせて嫌がったりします。時には赤ちゃんにとって、危うい食べ方になるのだということを忘れてはなりません。
だから子どもたちには、食べさせられるだけでなく、自分でも食べてもらいます。
もちろん、りんごも。
WHOが示す補完食ガイドでも、子どもが育つにつれて自分で食べられるように援助しよう、生後8か月ごろにはフィンガーフード(自分でつかんで食べられるもの)が食べられるようになるよ、と説いています。
(国外の離乳情報に関しては、友人であり歯科医師のshoのnoteへ)
初めからうまく食べられるわけではありませんが、経験すればするほど、彼らは本当に食べ方が上達し、そして食べることが好きになります。
私たちのクリニックでは、離乳食を始める頃から子どもが自分で食べることも勧めていて、子どもたちの目覚ましい発達をたくさん見せてもらっていますので、ここは自信を持って言い切ります。
早い段階から自分で食べることに慣れている子どもたちは、手で食べものに触れた瞬間から、この食べものに関する経験値を脳から呼び起こし、口に入ってきてからどうするか想像してから、食べ物を口に入れます。かじり取ったサイズが大きかったり、思った以上に固かったりすれば、無理をせずに吐き出します。
それまでの経験から、予想し、判断し、危険を回避する術を身につけているのです。
ある程度自分なりの食べ方が決まってくる段階(多くは1歳ごろ)以降にこの力身につけるには、時間がかかります。何でも口に入れる乳児期にこそ、たくさん経験させてあげたいです。
そして、子どもが食卓で食べる練習を積み重ねるために、大人がすべきことは3つです。
1、家族みな食卓で楽しく過ごし、健康的な食事をする
子どもは周囲の人の真似をして育ちますので、周囲の人がせっせと自分の食事を食べて、食卓で楽しそうに過ごしていれば、子どももそれに習って食べるようになります。できれば子どもも家族と同じ食べものを、つぶしてスプーンで食べるか、そのまま手づかみして食べます。
注:子どもが食べてはいけない食品は、日本では生の肉魚と原因が特定されているアレルギー食品以外には、ミニトマトやブドウなど丸くて窒息リスクが高いものは1/4に切る、はちみつは1歳になるまで控える、これくらいの配慮でOKです。
2、「食べる」を学べる食卓にする
子どもは一つのことに集中します。テレビは消して、気が散らないような環境にしましょう。
またテーブルとイスの関係も大変重要です。
適切な姿勢で食べることは、窒息予防にもなるからです。
テーブルとイスの関係については、神奈川県立こども医療センター偏食外来ステップアップ編「いつどこでたべる?」を参考になさってください。
実は、保育園の給食では、自然と1と2が実践されています。
周りのお友達はみんな人のことを構わずに、自分の「食べる」に集中しています。
それを手本にして自分も食べざるを得ません。
保育園にはテレビもないし、給食時間におもちゃが散乱していることもありません。
私のごはん外来には、家では食べないのに保育園では食べるという方がいらっしゃいますが、家庭で1と2を意識するだけで子どもの食べ方が変わっていきます。
3、ペースト食を食べさせる and / or 固形食を自分で食べる
繰り返しになりますが、ペースト食を食べさせられてばかりでは、食べるために必要なモチベーションや摂食スキルを養うことができません。
0歳代で離乳食を食べないという相談例の多くに対して、子どもが自分で食べられるように支援すると、たいていの子どもは食べるようになります。
食べ方の選択肢は二つです。
ペーストを食べさせつつ、自分で食べられる食事も用意する、いわゆるハイブリッドスタイル。
もしくは、固形食を自分で食べるBLWスタイル。
どちらで始めるかは家族が選べば良いことですし、始めた後に子どもに合わせて変えたりしても良いと思います。
保育園によっては、子どもの発達の根本に沿った保育をしたいという理由から、給食で手づかみ食べを進めている園もあります。
保育園と家庭とで食事方法が異なっても大丈夫。
子ども自身がその食品に合うように食べ方をアレンジできる力があれば、どこでも安全に食べられる、ということになります。
何でも学ぶためには、子どもだって大人だって、自分で脳と身体を動かし、試行錯誤を繰り返す、それが最も合理的です。
最後に窒息について。
こんな私のコラムを読んでくださる方はすでにご存知かと思いますが、
子どもの窒息は食べもの以外のものでも起こりますので、お子さんがいるご家庭や子どもに関わるお仕事をしてらっしゃる方には、子どもの窒息対応について学んでおいていただきたいと思います(日本BLW協会Youtube 子どもの窒息対応)
今回はここまでです!
長文お読みいただき有難うございました。
週末だーっと書いたコラムなので分かりづらい点があったらすみません。
もそも子どもの「食べる」について、何を食べさせたら良いか、など、子どもの「食べる」の基本を知りたい方は、ぜひ当院のインスタライブアーカイブをご覧になってください。
続くシリーズでは、赤ちゃんと食べ物の関係、赤ちゃんがりんごをどのように食べるか、様々な視点から話を進めていきたいと思っています。
追記:
このコラムでは「赤ちゃん」を主に0歳代の乳児を、「子ども」をそれ以上の年齢も含む乳幼児全体を表しています。