たんぽぽクラスのコンセプトを考えている中で、どうしても「現代の子どもの生きづらさ」を大人たちに知って欲しいという気持ちが強くなり、ここに書かせていただくことにします。
いま日本では、不登校や子どもの自死増加といった心の課題が社会問題になっています。小児科でも、発達上の課題や、不登校の相談、こころの不調の相談が着実に増えてきていて、危機感を持っています。過去イチ子どもが生まれないのに、健やかに育つことも難しい時代なのです。
ひと昔前と比べて世の中がとても便利になり、大人も子どももたくさん考えたり動いたりしなくても、すぐに知りたいことや楽しみに近づける時代になりました。さらに大人は、便利になって時間ができたはずなのに、スマホを手に、もっともっと効率の良いこと、手間のかからないこと、手軽に楽しめることを追い求めて生きています。
今のような時短かつ効率化社会になる前は、スマホやタブレットもなく、大人たちももう少し試行錯誤して生きていました。時に不確実さに耐え、楽しみも工夫して見つけていました。
ゲームやスマホが普及していなかった時代の子どもたちはというと、お絵かき、工作、お人形遊び、それらに飽きればまた次に楽しい遊びを考え出す毎日だったはずです。外遊びでは、暑さ寒さを感じながら草花や生き物に触れ、公園にいる誰かと鬼ごっこをして遊びました。ちょっと友だちといざこざしても、遊んでいるうちに自然と仲直りできました。実際にそのような暮らしをしていた時代は、自然と身体の機能や思考力、想像力、世の中との調整(感覚や対人関係など)を学ぶ機会が溢れていました。
スマホやゲームは私たち人間から、脳と身体を動かして試行錯誤したり、心が動くような実体験、モノではなく人と関わりを持つ時間を奪いました。
子どもの育ちは決して効率化できません。トライアンドエラーを何度も体験して、自分の力で世の中と自分の間を取りもつための経験、「できない」を「できた」に変えていくための十分な時間も必要です。
本来、子どもが子どもらしく育つには、モノではなくヒトがしっかり関わり、考えるための十分な時間を与えることが必要です。現代の社会構造と対極にある不便な環境が必要なのです。
子どもの代弁者である小児科には、これらの事実を多くの人に知らせる責任があると考えています。
手遅れになる前に、真に子どもの育ちに必要なことは何なのか、考え直す必要があるように感じています。
当院では、このような私たちの(暑苦しい)想いを体現させるべく、様々な工夫を凝らした専門外来やクラスを展開しています。特に赤ちゃんとの生活のスタートに当たる「たんぽぽクラス」の時期には、子どもの育ちに欠かせないエッセンスを中心にお話しを進めていきます。
それぞれのご家庭における「子育ての幹」となる部分を、皆さんと一緒に育てていきたいと思います。